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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)113号 判決 1973年8月29日

原告

藤田義直

右訴訟代理人

窪田健夫

右復代理人

下山田聡明

被告

高等海難審判庁長官

早川典夫

右指定代理人

増山宏

外五名

被告補助参加人

盧洪吉

右訴訟代理人

村井禄楼

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「高等海難審判庁が同庁昭和四四年第二審第六二号汽船ビオランダ号機船済洋号衝突事件につき、原告藤田義直を戒告する旨の昭和四五年一〇月一六日言い渡した裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

一、原告は、内海水先区水先免状を受有する水先人であるが、汽船ビオランダ(船籍港リベリヤ国モンロビヤ、船舶所有者リベリヤン・トランスオーシャン・ナビゲーション、総トン数二六、五六六トン)を水先するため、昭和四四年二月一六日午後三時四五分ころ神戸沖で同船に乗船して関門港外六連島に向う航行の途、明石瀬戸、播磨灘、備讃瀬戸、牛島南方を経て、同九時四〇分ころ二面島南方灯浮標から一八〇度(真方位、以下同じ。)三七〇メートル程の地点に達したとき、二七〇度の針路で備後灘掃海水路に入つて同水路右側につこうと考えたところ、折から同水路沿いに多数の船舶が認められたので、これを断念し、同水路外を進行して備後灘航路第八号灯浮標の西方付近に達してから同水路に進入するつもりで二五〇度としたが、その後一分経過した同時四一分ころ右舷船首方から反航してくる他船をかわすため二六〇度に転針し、13.5ノットの速力で続航した。同針路で進行すれば、たまたま前示第八号灯浮標の東方付近から同水路に進入できる進路であり、同水路航行中の船舶の動静次第ではそのまま同水路に入つてその右側につけるものと考えて続航中、同時五一分ころ同水路の南側界線近くに達したとき、正船首方に、同水路の右側を東航中の三隻の船舶の航海灯を認め、二五〇度に転じ、ついで、同時五二分ころ前示三隻の東航路の後方を通過するため、二七〇度に転針して同水路を横切る態勢としたこところ、明らかにこれらの船舶を無難に航過できる状況となつたが、その時はじめて、左舷船首約八度二〇〇〇メートル程のところに機船済洋号(船籍港大韓民国釜山市、船舶所有者大韓民国政府、済州大学所属練習船総トン数一〇五トン)の白、緑灯、その後方約九〇〇メートルのところに三隻の船舶の白、緑灯を認め、その後済洋号の方位がほとんど変らないまま接近したが、本船を右舷に見る済洋号がそのうち右転して本船を避航するものと考え、同九時五三分ころ同号から遠ざかるつもりで針路を五度右転して二七五度とし、汽笛を吹鳴して同船に注意を促して進行したが、相手船は避航することなくそのまま接近し、同時五四分ころ左舷船首近距離のところに迫つたので衝突の危険を感じ機関を停止し、続いて全速力後退にかけたが、及ぼず、同時五五分ころ第八号灯浮標から八七度一、〇〇〇メートルほどの地点において二七五度を向いたビオランダの船首が済洋号の右舷側船首部に前方から約五〇度の角度で衝突した。

済洋号は、同月一三日午後八時大韓民国済州道済州を発し、長崎県壱岐および関門港下関区に順次寄港して大阪に至る航行の途、同月一六日午後九時五〇分ころ六島灯台から一六五度1.25海里の地点に達し、それから掃海水路の右側に沿う六五度の針路とし、一〇ノットの速力で進行したが、そのころ済洋号の前方に前示三隻の船舶が先航しており、また後方にも前示三隻の船舶が追尾中で、ほかに左舷船首方に掃海水路を来航する多数の船舶が認められたが、同号船長は掃海水路外から水路内にはいつてくる船舶はいないと思い、周囲の見張りを怠り、備後灘航路第九号灯浮標が、その付近で作業していた浚渫船の強い光に妨げられて見にくいこともあつて、同浮標を発見することにのみ注意を集中していたためビオランダが右舷船首方から来航してくることに気づかず続航中、同時五四分半ころ右舷船首約一点半四〇〇メートルばかりのところにせまつたビオランダの船影と紅灯をはじめて認め、急いで機関停止、ついで全速力後退を命ずるとともに、左舵一杯をとつたが及ばず、船首が約二点左転したとき前示のとおり衝突した。その結果、ビオランダは船首材およびこれに接する外板に小凹傷と擦過傷を生じ、一方済洋号は右舷側船首外板にくさび型破口を生じて浸水沈没し(のちに引揚げられた)、乗組員三名が負傷した。

二、ところで、右海難事件について、高等海難審判庁は、(一)済洋号の直近後続船との距離を四〇〇ないし五〇〇メートルと認定し、(二)、本件衝突地点付近の水域は特定水域航行令一条四号の掃海の完了した瀬戸内海の狭い水道の水域として指定されたままの掃海水域であり、かつ、備讃瀬戸と来島海峡とを結ぶ内海の主航路をなしているものであつて、かかる水域に多数の船舶が続いて航行中である場合には、掃海水路外から水路を横切つてその右側につこうとする船舶は、たとえ前示水路航行中の船舶のうちの一部と横切関係となつても二船間の航法規定のみでは律することはできない事情があるから、水路航行中の船舶の進路を妨げてはならないと説示したうえ、原告は当時ビオランダを操船して同水路外から水路を横切りその右側につこうとしたところ、水路航行中の一船である済洋号と衝突のおそれのある関係となり、同号との関係のみにおいては自船が保持船となるが、同号の前後には多数の船舶が航行していたから、右に説示したように、このような場合には、水路を横切るのを中止して水路航行中の船舶の進路を妨げないようにすべきであつたにもかかわらず、強いて水路を横切ろうとして済洋号の前路近くに向けて進行した原告の運航に関する職務上の過失によつて本件事故は発生したが、済洋号船長が周囲に対する見張りを怠つたため、衝突のおそれのある態勢で近寄つてくるビオランダに著しく接近するまで気付かず、臨機避譲の措置がおそきに失した同船長の運航に関する職務上の過失も右事故の一因をなすものであり、原告の所為は懲戒すべきものであるから、原告を戒告する旨裁決した。

三、しかしながら、右裁決は事実認定および適用すべき航法規定を誤つたものであるから、これを取り消すべきである。すなわち、裁決は、済洋号の後方を続航していた三隻の後続船の先頭船から済洋号までの距離を四〇〇ないし五〇〇メートルとしているが、これは誤りで、証拠上九〇〇ないし一、〇〇〇メートルと認定しなければならない。そうすれば、済洋号の前後を東航していた船舶の状況は、先航船までの距離については裁決はふれていないが、証拠上四〇〇ないし五〇〇メートルのところに三隻と、後方は九〇〇ないし一、〇〇〇メートルのところに後続船三隻が存在していたこととなり、なるほど裁決のいうとおり、掃海水路中に多数の船舶が航行中であつたということは認められるけれども、ビオランダと済洋号が横切りの見合関係になつたころには、先航船三隻はすでにビオランダの正船首方を無難に航過できる状況が明らかになつたのであるから、本件衝突事件にはなんらの関係はなく、また、ビオランダと済洋号の二船間の横切関係を生じてから衝突するまでの間に三分程の時間的経過があつて、しかも、衝突時ころは後続船までの距離が七〇〇メートルも離れていたのであるから、後続船も本件衝突事件になんらの関係がなく、裁決のいうビオランダと済洋号の二船間の航法のみでは律し切れない事情があつたという判断は、右のような見合関係からはでてこない。本件については明らかに海上衝突予防法一九条の横切関係の航法規定を適用すべきであつたのにもかかわらず、掃海水路航行中の船舶に航路優先権を与え、ビオランダに避譲義務を負わせたものであり、これは誤りである。本件衝突地点は大型船航行のため開発された備讃瀬戸南航路と掃海水路の会合点であり、来島海峡へ通ずる掃海水路と布刈瀬戸を経て尾道瀬戸・三原瀬戸に至る水路の会合点でもある。したがつて、掃海水域航行中の船舶に対し特権を与えることは妥当でなく、そのような特権を与える法律上の根拠もない。また、右船舶と掃海水域を横切る船舶との間で、前者に優先権を与える根拠はなく、後者に対しなんらの法律上の規制もない。海上衝突予防法一九条は水域の広狭によつてその適用に差異があるものではない。狭い水道内においては、安全でありかつ実行に適する場合には同法二五条所定の右側航行の適用されることは当然で、このことと同法一九条の適用とはなんら矛盾しない。したがつて、仮に本件水域が備後灘航路として備讃瀬戸と来島海峡とを結ぶ瀬戸内海の主航路をなし、運輸省の関連告示により同航路の各灯浮標を順次連結する推薦航路線の左右各一、〇〇〇メートルの水域が特定水域航行令一条四号の掃海が完了した瀬戸内海の狭い水道の水域として指定されたままになつていたとしても、これは単にその水域を狭水道と認めたにすぎないのであり、これにより、掃海水域航行中の船舶がそれ以外からそこに入ろうとする船舶に対して優先権をもつものではない。また、実際の操船においては、相手船との見合関係のみで航法規定の適用を考えるべきであり、後続船の有無およびそれとの距離関係で適用法規が変ることは、操船者の予想することのできないところであり、法規の画一的適用ないし法的安定性からみても好ましくない。衝突予防につきいかなる航法規定を適用すべきかは、見合関係に入つた二船間で決すべであり、第三船の出現によりその適用航法規定が変るべきでなく、第三船との関係は別個に考えるべきであり、本件において、前記裁決が船員の常務の規定を適用したことは誤りである。

本件衝突の原因は、ビオランダを右舷側に見て横切関係にあつた済洋号が見張りを怠つていたため、衝突のおそれのある状況で接近してきたビオランダの来航に気付かず、同法一九条の規定に違反して速やかにビオランダの進路を避けなかつた済洋号船長の一方的な運航に関する職務上の過失によつて発生したものであり、原告にはなんら運航上の過失はないから、原告を戒告にした裁決は違法であつて取り消されるべきである。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、次のとおり答弁した。

原告主張の請求原因事実中第一、二項の事実は認めるが、第三項の事実は争う。もつとも、裁決は済洋号の後続船までの距離を四〇〇ないし五〇〇メートルとしたがこれを訂正し、九〇〇メートルと主張する。また、済洋号の先航船までの距離は三〇〇ないし六〇〇メートルであつたが、済洋号の前後の東航船の状況が右のとおりであつたからといつて、本件衝突事件において原告主張のように海上衝突予防法一九条の規定を適用する余地はない。すなわち、当時は夜間のことでもあり、巨船のビオランダが多数の船舶の航行中であつた備後灘掃海水路に横切状態で同水路外から進入することは航海保安上極めて危険なことが予想されるところであり、原告自身もこれを知つていたからこそ、二面島南方に達してから直ちに備後灘掃海水路に進入することなく同水路外を進行し、また同水路南側界線近くに達してからも、正船首方に水路内を航行していた東航船(済洋号の先航船)を認め、なんら衝突のおそれもないのに前記南側界線にほぼ沿う二五〇度に変針し、ついで一分程経過してから、もう大丈夫水路を無難に横切れると考え、二七〇度に転針しているのであつて、当初から海上衝突予防法一九条の規定に従つて航行しようとしたものでなく、これら東航中の多数の船舶の間を無難にくぐり抜けようとしていたものである。そして、右のように二七〇度に転じて水路を横切る態勢にしたとき、はじめて済洋号とその後方の後続船三隻を認めたのは、原告が見張り不良であつたからで、しかも済洋号の進行方向を誤認していたため、二七〇度に転じてから一分足らず航走した同五三分ころ(衝突二分前ころ)済洋号との距離一四〇〇メートル足らずにせまつたとき、五度右転(二七五度)して、あえて済洋号と衝突する危険な態勢をつくり衝突したものである。以上のように、ビオランダと済洋号のみの見合関係についていえば、午後九時五二分より前には、両船互にそのままの針路速力を保つて進行すれば、明らかに無難にかわり行き衝突のおそれのない態勢であつたにもかかわらず、原告は見張り不良のため、これに気付かず、衝突の三分前の同九時五二分ころ済洋号が右舷船首約一二度二、〇〇〇メートルほどに接近したころ、わざわざ同号の前路に進出する二七〇度の針路(済洋号を左舷船首約八度に見る針路)として、あらたな衝突の危険を生ぜしめたのである。海上交通における国際的な通念として、一般に新たな危険を生ぜしめた船舶はその危険から生じた海難についての責を負うという特別原則からして、避譲義務は原告自身にあるし、判例もこれを認めている(最高裁判所昭和三二・二・二一第一小法廷判決、民集一一巻二号三〇九頁)。海上衝突予防法一九条の規定を適用する余地はない。このように瀬戸内海の主航路に多数の船舶を連続して航行中である場合において、同水路外から右航路に進入するときは、たとい一船は避けることができても、そのために他船と新たに衝突の危険を生ぜしめるおそれが大きいから、見張りを厳重して各船(水路航行中の船舶)とも無難に航過できる状況になつたことを確かめてから横切るよう行船することが海員の常務として要求されるところであるのに、原告はこれを怠つたものである。高等海難審判庁が、前記のような趣旨のもとに原告の右所為に対し原告を最も軽い戒告の懲戒処分に付したからといつてなんら違法ではない。原告は、海上衝突予防法二九条に定める船員の常務として、前記のように掃海水路を連つて航行していた船舶を避航すべき注意義務があるのに、これを度外視し、衝突直前の両船の見合い関係のみによつて同法一九条を適用すべきであるとする原告の主張は理由がない。

<証拠略>

理由

一原告主張の請求原因一および二の事実については、当事者間に争いがない。

二そこで考えるに、なるほど掃海水路に進入する場合において同水路の航行船に航行優先権があるという法律の規定は、当時は存在しなかつた。したがつて、これについても一般航法規定が適用されるのであるから、原告としては当初の考えどおり、午後九時四〇分ころ二面島南方灯浮標から一八〇度三七〇メートル程の地点に達してから、そのまま二七〇度の針路で進行してもなんら差支えなく、同水路右側航行船に対してはビオランダが権利船として針路速度を保ちつつ同水路を横切ることができたはずである。しかるに、原告は、折から同水路沿いに多数の船舶が認められたので、八号燈浮標西方に出てから同水路にはいることとし、一たん針路を二五〇度に定めて進行し、同時四一分ころ一船舶を替わすため二六〇度に転針し、同時五一分ころには同水路の右側を東航中の三隻の船舶を替わすため二五〇度に転針し、同時五二分ころ、さらに、この三隻の後方を通過するため二七〇度に転針したのであるが、これは原告が安全を考えてとつた処置であり、無難に航過できる状況になつたならば水路を横切つて同水路の右側につこうとしていたことは明らかである。このようにビオランダは東航船を避けて同水路の南側を進行していたのであり、視界は良好であつたのであるから、原告がよく見張りをしておれば、二六〇度から二五〇度に転針するころ済洋号の先航船のほかに済洋号をも認めることができたはずであるのに(成立に争いない乙第三号証、第五号証の二により認められる。)、見張り不良のため済洋号を見おとし、二七〇度に針路を転じ、これでもつて水路航行船の航行に危険を生ぜしめることなく同水路の右側につくことができると考え、そのような処置をとつたものである。そうでないとすれば、前記のような経緯でわざわざ二五〇度に転じていながら、一分程しか航走していない時点において、しかも済洋号との距離が二、〇〇〇メートルに接近しているのに、同号の進路に進出するような二七〇度の針路をとることが合理的に説明できないからである(また済洋号の存在に気付いておれば、その進行方向を誤認することもなかつたであろう。)。かくして、原告は、掃海水路における東航船の進路を妨げないよう、その進路を避けて行船しながら、済洋号の存在に気づかず、安全に同水路の右側につけるものと考えて、済洋号の手前二、〇〇〇メートルほどのところで二七〇度に転針したとき、はじめて同水路を東航してくる済洋号に気づいたのであり、そして、そのとき、はからずもビオランダが済洋号に対して権利船となるような見合関係を生じたのであつて、原告は海上衝突予防法一九条の航法規定に従つて航行していたものでないことは明らかである。そして、ビオランダは総トン数二六、五六六トンの巨船で速力13.5ノット、済洋号も一〇ノットの速力(両船の一分間の接近距離は計算上約七三〇メートルとなる。)であり、両船間の距離が二、〇〇〇メートルに接近してから生じた見合関係である。しかも、ビオランダは右二七〇度に転針してから一分足らず航走したとき五度変針して二七五度としたが、もし右二七〇度の針路のままであれば、なお済洋号はビオランダの正船首方に方位がかわつて行き、ビオランダの正船首方四四〇メートルほどのところを左から右に航過して衝突を避け得たはずである(このことは当時の両船の速力、進路模様と経過時間により働突時より計算した両船の見合関係から明らかである。)のに、右のように五度変針したため衝突したのである。原告が右のように五度変針したのは以上に説示したところから済洋号の進行方向を誤認したためであると認められるのであつて、同法一九条関係にあるとの認識のもとに衝突のおそれがあるからとつた措置とは認められない。(臨機避譲の措置としては当然機関停止後進全速力の措置をとるべきである。)そうすれば、この場合同法一九条の規定の適用はないものといわなければならない。原告は、前述の済洋号とビオランダとの見合関係をとらえて同法一九条の適用があると主張するが、もし、このような行船方法が認められるのであれば、二船間に何ら衝突のおそれのない関係にあつたのに、自船の都合のよいように進路を変更して衝突の危険を生ぜしめておきながら、ある時点で同法一九条の見合関係になるような態勢になれば、これによつて自船に航路権が認められる結果となつて不合理である。済洋号船長が衝突直前までビオランダの接近に気づかなかつた見張り不良という同船長の重大な過失も本件事故の原因ではあるが、原告は掃海水路に多数の船舶が続いて航行中であることを認め、これら船舶を避けながら、同水路外から水路を横切つてその右側につこうとしたのであるから、よく見張りをして他船の動静を把握すべきであるのにかかわらず、これを怠り、済洋号の東航していることを見張り不十分のため発見しなかつたことにおいて過失があり、そのためビオランダの操船を誤つて済洋号の前路に進出し、済洋号船長の前記過失と相俟つて、本件衝突を惹起せしめるに至つたものであり、これは原告が海員の常務(同法二九条)を怠つたものといわなければならない。

三したがつて、原裁決が本件衝突事故につき同法一九条の規定を排除し、原告の海員の常務の履行の怠りをとらえ、原告に過失ありとして同人を戒告したのは相当であり、同裁決の取消しを求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

四よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(位野木益雄 鰍沢健三 鈴木重信)

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